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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)789号 判決 1964年5月23日

上告人

互栄電気校式会社

右代表者代表取締役

菊池源吾

右訴訟代理人弁護士

笠島永之助

被上告人

高野蔵之助

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人笠島永之助の上告理由について。

原判決引用の第一審判決は、被上告人は昭和三三年四月一七日訴外八島外茂から一二万円を借り受けるに当り、右債務の担保として本件土地、建物に抵当権を設定することとし、その登記手続のため右土地、建物の権利証および被上告人名義の白紙委任状、印鑑証明書を八島外茂に交付したが、八島外茂は自己のための抵当権設定登記手続をすることなく、訴外金見弘道を介して金融を得る目的でこれらの書類を和田哲一に交付したところ、和田はこれらの書類を用い、被上告人の代理人であると偽り、上告人と債務極度額一〇〇万円とする本件根抵当権設定契約および停止条件付代物弁済契約を締結したこと、八島や和田がこのようにこれらの書類を使用することについては上告人が承諾を与えたことがないとの事実を確定したものである。

論旨は、以上の場合において、被上告人は民法一〇九条にいわゆる「第三者ニ対シテ他人ニ代理権ヲ与ヘタル旨ヲ表示シタル者」に当るという。しかしながら、不動産所有者がその所有不動産の所有権移転、抵当権設定等の登記手続に必要な権利証、白紙委任状、印鑑証明書を特定人に交付した場合においても、右の者が右書類を利用し、自ら不動産所有者の代理人として任意の第三者とその不動産処分に関する契約を締結したときと異り、本件の場合のように、右登記書類の交付を受けた者がさらにこれを第三者に交付し、その第三者において右登記書類を利用し、不動産所有者の代理人として他の第三者と不動産処分に関する契約を締結したときに、必ずしも民法一〇九条の所論要件事実が具備するとはいえない。けだし、不動産登記手続に要する前記の書類は、これを交付した者よりさらに第三者に交付され、転輾流通することを常態とするものではないから、不動産所有者は、前記の書類を直接交付を受けた者において濫用した場合や、とくに前記の書類を何人において行使しても差し支えない趣旨で交付した場合は格別、右書類中の委任状の受任者名義が白地であるからといつて当然にその者よりさらに交付を受けた第三者がこれを濫用した場合にまで民法一〇九条に該当するものとして、濫用者による契約の効果を甘受しなければならないものではないからである。本件において原判決が前掲の事実を確定し和田哲一の判示行為につき民法一〇九条を適用することができないとしたのは相当であり、原判決に所論の法律解釈を誤つた違法はない。所論引用の判例は本件に適切でない。論旨は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八六条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 城戸芳彦 石田和外)

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